Tall Wiener Dog

アメリカで移民として暮らす

あたしブロンドだから その2

ジェーンのブロンド発言から一週間後、法務の人から連絡があった。決まりで詳しい日程は言えないけど、近々避難訓練をするのでよろしくということだった。僕は受付の人と一緒に従業員を誘導する役だったので、それはまあ分かるのだが、頼み方がいつもより念を押していて、とにかくジェーンを助けてあげて、ということだった。「そんなに難しかったっけ」と訝りながら受付に行くと、ジェーンが矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。まるで爆弾処理でも頼まれたような慌てぶりで、とにかく「どうしたらいいの!?」を連発していた。とりあえず僕はこのどうしようもないオバちゃんを落ち着かせて、従業員のリストを更新することと、警報が鳴ったときの持ち物と手順を伝えて自分の部屋に戻った。豊富な職務経験は一体どこに行ったのか?

そして数日後、警報が鳴り避難訓練は始まった。僕はすれ違う人に声をかけつつ、ジェーンの様子を見に受付へ急いだ。そこには拡声器とリストを抱えたジェーンが震えながら立ち尽くしていた。うんざりした僕は、他の人と一緒に建物の外に行くよう指示して、僕は再度フロアを巡って誰も残っていないのを確認してから指定の避難場所へ合流した。

ジェーンはそこで従業員にリストにサインするよう呼びかけることになっていたのだが、相変わらず黙って突っ立っていたので、僕は彼女からリストを奪い取ってスタッフにサインしてもらうよう声をかけていった。全員がサインしたのを確認した後、僕たちは談笑しながらオフィスに戻っていった。まあ何はともあれ、これで終わったのだ。

しかしその翌日法務の人から、規定の時間内に避難が完了しなかったので、もう一度訓練をしなければならなくなったと連絡が入った。あれをまたやるのか。気が重かったが、今度はジェーンも少しは勝手が分かったろうし、まさか3回目は無いだろう。

それは結局杞憂に終わった。ある朝出勤してみると、受付にはジェーンの代わりに財務の先輩が座っていた。「彼女風邪でも引いたんですか」と聞いた。「いや、さっきうちのボスに電話してきてね、今日限り辞めるって」これはすごい。two weeks noticeも無しに、直接会うこともなく。ケーブルテレビの解約じゃあるまいし。

辞め方はとにかく、まあこれで良かったんだろう。後日ちゃんとした受付も採用されたし。何かとポリコレ的に危うい発言の多い人だったので、そのうちビデオにでも撮られて朝のニュースに出てくるかも知れない。